ⓔコラム8-4-2 GWASとPheWAS (フェノムワイド関連解析)

 虚血性心疾患を含む疾患・形質のGWASは統計的パワーを得るために多くのサンプル数を必要とする.その目的のため多くの疾患コンソーシアムが立ち上がり,協力して結果を出してきた.近年は巨大バイオバンクコホートが,このような疾患コンソーシアムのかわりを担うようになってきた.有名なものは英国の50万人規模のUKバイオバンク1),その他には北米のプレシジョンメディシン・イニチアチブから派生したMillion Veteranプログラム2),“All of US”リサーチプログラム3)などがある.また,deCODE Genetics (アイスランド)4),FinnGen (フィンランド)5)など国家規模でもバイオバンクがつくられつつある.日本ではバイオバンクジャパン6),東北メガバンク7)などがある.これら数十万~数百万人のメガバンクを活用した研究によって,虚血性心疾患の遺伝的基盤が詳細に解明されることが期待される.

 また近年の電子カルテベースのバイオバンクデータの普及により,ある疾患の感受性座位がほかの疾患や形質にどう影響するかを網羅的に検索できるようになった (図1).このように1つの表現型 (phenotype) でなく網羅的な表現型の情報 (phenome) に対して,1つのジェノタイプとの関連を検定することを,フェノムワイド関連解析 (phenome–wide association study:PheWAS)8)という.このような検索を行うことによって,例えば虚血性心疾患感受性座位が疾患そのものだけでなく,収縮期血圧や血糖などに相関がある,というような関係を見いだすことができる.またGWASのサマリ統計はその形質 (trait) の遺伝的特徴を表していると考えられており,このような疾患や形質どうしでGWASのサマリ統計を比較検定することによって,各疾患・形質間の遺伝的相関 (genetic correlation)9)を計算できる.このような検討により,1つの疾患がどのような表現型に関係するのか,また遺伝的に近い疾患は何かなどを知ることができる.そのほかに,遺伝的基盤が近似した疾患・形質どうしをメタ解析することにより,その共通の遺伝的シグナルを検索しようとする研究10)も行われてきており,疾患間に共通するメカニズム解明に貢献している.

図1 PheWASとgenetic correlation. GWASの結果から得られた疾患発症に関連する遺伝的多型がほかの形質や疾患にどのような影響を及ぼすのかを網羅的に検定するPheWAS (左),複数の疾患・形質の遺伝的基盤の類似性を検討するgenetic correlation解析 (真ん中) の図.また類似疾患のGWASのサマリ統計を特殊な方法でメタ解析し,共通の遺伝的シグナルを検出することもできる (右).PheWASプロットはhttps://phewascatalog.org/phewasより,genetic correlationのプロットはUKバイオバンクのものをhttp://www.nealelab.is/blog/2019/10/10/genetic-correlation-results-for-heritable-phenotypes-in-the-uk-biobankより作成した.

〔伊藤 薫〕

■文献

  1. UK biobank. https://ukbiobank.ac.uk/

  2. Million Veteran Program. https://www.research.va.gov/mvp/

  3. All of Us Research Program. https://allofus.nih.gov/

  4. deCODE genetics. https://www.decode.com/

  5. FINNGEN. https://www.finngen.fi/en

  6. バイオバンクジャパン.https://biobankjp.org/

  7. 東北メディカル・メガバンク機構.https://www.megabank.tohoku.ac.jp/

  8. Bush WS, Oetjens MT, et al: Unravelling the human genome-phenome relationship using phenome-wide association studies. Nat Rev Genet, 2016; 17: 129–145.

  9. Bulik–Sullivan B, Finucane HK, et al: An atlas of genetic correlations across human diseases and traits. Nat Genet, 2015; 47: 1236–1241.

  10. Cross–Disorder Group of the Psychiatric Genomics Consortium: Genomic relationships, novel loci, and pleiotropic mechanisms across eight psychiatric disorders. Cell, 2019; 179: 1469–1482.